ローディングアンテナ(中間部負荷型)の設計方法 ―スミスチャートを使ったローディングコイルと調整ヒゲの算出―
1. Introduction
ローディングコイルを使ったシングルバンド,2バンド,あるいはマルチバンドアンテナの設計を解説した資料はあまり多くありません.シングルバンドの場合はとにかく作ってみるという手法もとれますが,マルチバンドで使ったり,あるいは設置スペースの制約条件があるような場合は闇雲にやるわけにもいきません.
本稿は2バンド用ローディングアンテナを題材に,スミスチャートを使ってローディングコイルの位置とインダクタンス算出,エレメント長の決定,調整ヒゲの長さ決定を解説することを目的としています.
なおスミスチャートの使い方については本稿の範囲外ですので,別途適当な資料でご確認下さい.
2. 設計例題
設計例題として,Fig.1に示すような3.5/10MHz用水平アンテナエレメントを考えることにします.これはダイポールの片側と考えて下さい.
エレメント\(L_1\)と\(L_2\)はそれぞれ10MHz用エレメント,3.5MHz用エレメントを,\(L_H\)は10MHz用の調整ヒゲを表しています.
本設計例ではすでに\(L_1\)と\(L_2\)の長さがそれぞれ7.42m,4.2mに決まっているものとします.\(L_1\)の長さは10MHzの\(\lambda / 4\)として,\(L_2\)は私のアンテナ展張スペースの制限で決まった値です.
したがって,この設計例で求めるのはローディングコイルのインダクタ値とヒゲの長さ\(L_H\)ということになります.
3. ローディングコイルのインダクタンス
エレメント\(L_1\)及び\(L_2\)がすでに決まっていますので,これを3.5MHzでの電気長(何波長に相当するか)に変換してスミスチャートにプロットします.
\(L_1\)は計算すると\(0.087 \lambda\)となりますので(\(7.42 \times 3.5 / 300\)),スミスチャートの\(0\) Ωの位置(左端.ここが給電点ということ)から反時計方向に\(0.087\lambda\)だけ回転します.Fig.2において,赤い円弧で示した\(L_1\)の軌跡がこれに該当します.
\(L_2\)は\(0.049 \lambda\)(\(4.2 \times 3.5 / 300\))です.こちらはスミスチャートの\(\infty\) Ωの位置(右端.開放端)から時計方向に\(0.049 \lambda\)だけ回転させます.下の図において緑の円弧で示したL2の軌跡になります.
ローディングコイルのリアクタンスは簡単に求めることができます.
給電点から\(L_1\)だけ回転した点の正規化リアクタンス値を読み取ると0.60です.エレメント線路の特性インピーダンスを\(Z_0\)とすれば,\(0.60 Z_0\)となります.
エレメント末端(開放端)から\(L_2\)だけ回転した点のリアクタンス値を読み取ると\(3.15 Z_0\)となります.
したがってローディングコイルのリアクタンス値は,両者の差を取って\(X_L = 2.6 Z_0\)(有効数字2桁)となります.
エレメント線路の特性インピーダンスが500Ωの場合,これより3.5MHzで\(2.6 \times 500 = 1300\)Ωのリアクタンスになればいいので,ローディングコイルのインダクタンスは約59μHとなります(\(X_L = 2 \pi f L\)より).
エレメント線路の特性インピーダンスについては後述します.
4. 調整ヒゲの算出
2バンドローディングアンテナの場合,高い方の周波数帯(この設計例では10MHz帯)は給電点側のエレメント\(L_1\)のみが分担し,ローディングコイルから先は機能しないようにします.調整用ヒゲは,実はローディングコイルから先の部分とで並列共振回路(トラップ)を構成しています.
調整ヒゲの算出については,高い方の周波数帯で考えます.
ローディングコイルから先を見た10MHzでのインピーダンスを求めます.
\(L_2\)は10MHzにおいて\(0.141\lambda\)(\(4.2 \times 10.1 / 300\))となりますので,Fig.3のようにスミスチャートの\(\infty\) Ωの位置(右端.開放端)から時計方向に\(0.141\lambda\)だけ回転させます:緑の円弧で示した\(L_2\)の軌跡になります.
次にローディングコイルの10MHzでのリアクタンスを求めると\(7.5Z_0\)となりますので(\(2.6 \times 10.1 / 3.5\)),\(L_2\)の軌跡に引き続いて時計方向に正規化リアクタンス値で7.5だけ回転させます(青の円弧で示した軌跡).
結果として,ローディングコイルから先を見たインピーダンスは\(j6.7Z_0\)となります.
10MHz用のエレメント(\(L_1\))は\(\lambda / 4\),すなわちスミスチャート上で1/2回転の長さを持っています.したがって,このアンテナ全体を10MHzに共振させるには,10MHz用のエレメント(\(L_1\))先端から先を見たインピーダンスが\(\infty\)になるようにします.
このためにはローディングコイルから先を見たインピーダンス(\(j6.7Z_0\))を相殺するような容量性インピーダンスを並列に接続します.これが調整ヒゲになります.
調整ヒゲの長さ\(L_H\)は,簡単には10MHzのスミスチャートにおいて,ローディングコイルから先を見たインピーダンス(\(j6.7Z_0\))の点から\(\infty\)まで回転させた軌跡の電気長ということになります.この例の場合ですと\(0.0235\lambda\)となり,約0.7mとなります(厳密には,ローディングコイルから先を見たインピーダンスをアドミタンスに直し,それを相殺する容量性アドミタンスを持つ線路の長さを求めるということになります).
以上で設計は終了です.
5. 調整手順
このアンテナの調整は次のような手順で行います
- 調整ヒゲとローディングコイル以降をはずしてエレメント\(L_1\)だけが動作する状態にし,10MHz帯に同調するよう\(L_1\)を調整する.
- ヒゲ,ローディングコイル及びエレメント\(L_2\)を接続し,3.5MHz帯に同調するよう\(L_2\)を調整する.
- 10MHz帯に同調するよう調整ヒゲ\(L_H\)を調整する.
6. エレメント線路の特性インピーダンス
Fig.4のように地上面からの高さ\(h\) mに直径\(d\) mのエレメントが水平に張られている場合,この線路の特性インピーダンス\(Z_0\)は具体的な線径と地上高で計算した特性インピーダンスをFig.5に示します.
Note: MathJaxを初めて使ってみた.